『  降る雪に ― (1) ― 』

 

 

 

   ビュウウ −−−−−−−   ・・・・

 

風というものは 時には怪獣の咆哮みたいに呻ったりするものだ。

季節や地域によっては 癒しになり 慰めになり ・・・

灼熱の地では 命をまもることもあるだろう。

 

   今 二重窓の外では 白い嵐が吹き荒れている。

 

     ビビビビビ・・・  ビビビ ・・・・

 

分厚いはずの、それも二重になっているガラスが 小刻みに震えているのだ。

「 ・・・・   うひゃ 〜〜 」

そっと 指で触れてみれば その表面は感覚がなくなるほどに冷え切っていた。

「 すっげ〜〜〜 」

「 ?  気をつけて ジョー。  窓に触ってはダメよ。

 指がくっついてしまうわ 

部屋の奥、 暖炉の前から柔らかい声がとんできた。

「 ・・・ あ ・・・ うん ・・・

 くっつかないけど  めっちゃ冷えてる ・・・ 」

「 あ?  ああ ・・・ そうねえ  人工皮膚ならくっつかない かも 」

「 いやあ〜  ちょっとはくっついた・・・ いてて・・・

 ・・・ うん 破けてないよ 」

「 − お前さん。  本格的な北国は初めてか 」

やはり部屋の奥から 不愛想な声が届く。

「 うん。  チビの頃ね 一回だけ慈善団体の企画でスキーに

 連れていってもらったこと、あるけど ・・・ 」

「 ふん。 日本のスキー場の比じゃあねえからな  ここいらの寒さは 」

「 そうねえ  北ドイツの冬は ― ああ 炎も氷りそうよ 」

「 ふふん 上手いこと、言うな 

「 だって ・・・ わたし シャモニーでスキーしたことあるけど

 ここの寒さの比じゃあなかったわ  」

 

   すご ・・・い ・・・  

 

彼女は窓辺にまで寄ってきて カーテンの隙間から外を眺めた。

「 ・・・ 白いカーテンねえ なにも見えない・・・ 」

「 ウン ・・・ 」

「 あ ジョーは南極に行ったこと、あるのでしょう? 」

「 ああ ・・・でもこんな風に吹雪いてなかったんだ 」

「 そうなの ・・・ ふふふ〜〜 でもね〜〜? アルベルト? 」

「 ふふん  こんな中だから こそ スキーを楽しもうじゃないか。

 < 普通のニンゲン > は無理でも俺達なら な 」

「 うふふふ 〜〜 わたし ちゃ〜〜〜んと 日本の ほかろん 

 い〜〜〜っぱい貼ってきたし? 

  それにね 一番下に防護服を着ておけば 全然平気よね 」

「 まあ 油断は禁物だ。 上に一応 ウィンド・ブレーカーを

 羽織ってゆこう。 」

「 博士、特製の ね?  ねえ いつ出発する? 」

「 もう少し ―  この嵐が止んでからにしよう。

 いくら 我々でも 自然の脅威には敬意を表するほうがいい 」

「 そうね ・・・ ジョー? どうかしたの 」

「 いやあ ・・・ ぼく 初めてだから なんか ドキドキ 」

「 ふふふ  きっと夢中になるわよ 」

「 ゲレンデ・スキーじゃ 味わえないぞ。 」

「 へえ・・・ アルベルト すごく乗り気だね 」

「 ふふん ・・・ やはりなあ 欧州の冬は いい 」

「 ・・・ 湘南育ちには さむいよ〜〜〜〜 」

「 あらあ 一番下に防護服、着てるでしょう? 」

「 もちろん〜〜  でも さむい ・・・ 

 フラン〜〜〜  ほかろん、余分なの持ってない? 

「 あら 町のドラッグ・ストアに売っているわよ?  このホテルの中にも

 売店 あるし 

「 − 性能 ワルイんだもん。 12時間高温き〜ぷ は 

 やっぱり日本製にかぎる〜〜 」

「 なあんだあ?   そんなモン、 滑りだせば不要になるさ。

 吹雪が止んだら 早速出発するぞ〜〜 」

「 了解〜〜♪ 」

「 ・・・ わ かったデス ・・・ ひえ〜〜〜

 

ここは北ドイツ。 森を間近に控えた老舗のホテルの一室。

外は猛吹雪が呻り声をあげているが 堅牢な石造りのこの建物の中は

実に心地よい。

部屋の隅には建物と同様に年期の入ったヒーターが しかしがっつりと働き

快適な暖気を提供している。

 

「 ・・・ ああ あったかいなあ〜〜 」

ジョーは またすこし椅子をその古色蒼然たるヒーターに近づけた。

「 おい。  近寄りすぎてお前に前髪、焦がすなよ 」

「 うふふ 〜〜  ジョーってば 猫さんみたいねえ 」

「 ―  いいじゃん〜〜  だってぼく、寒いんだもん 」

欧州人の仲間にからかわれつつ じゃぱにーず・ぼ〜いは 背を丸める。

 

       だってさ ―

       ほ・・・っんと 寒い ・・・

 

       なんていうのかなあ

       日本と寒さの質が違うってか ?

       そりゃ ぼくは湘南育ちだから仕方ないけど・・・

 

       こう〜〜 ずし〜〜んと重いんだ

       このホテルみたいに さ

       ちょこっと着込んだくらいじゃ 

       ・・・ 勝てない って気分★

 

ジョーは その必要などないのに、着こんでいるフリースのブルゾンの

襟元をしっかりと掻き合わせる。

ああ  ダウン・ジャケットを着た方がいいかも・・と思い始めていた。

 

「 ふふふ  あのね じっとしていると余計に寒いわよ。

 大丈夫 滑り始めれば楽しくて ― もう汗びっしょりになるわ 」

「 フラン〜〜 そんなにスキー 上手なんだ? 」

「 ううん  わたしは 普通 かなあ  巧いのはアルベルトよ 」

「 ・・・ へえ  

「 だからね ジョーを誘ったの。  

 本格的な 山スキ― 楽しみましょうよ 」

「 ・・・ ぼく そんなに経験もないし〜〜〜 」

「 ま 習うより慣れろってことだ。  この辺りの地形には

 詳しいから安心しろ 」

「 きゃ〜〜 ステキ♪ あのね あのね〜〜

 真っ白なスキー・ウェア 持ってきたのぉ〜〜 」

「 雪の精霊になっちまうぞ 」

「 うふふふ ・・・ メルシ〜〜〜  お世辞でも嬉しいわ 

「 ・・・・ 」

 

      ふう ・・・  ジョーはかなり不安なため息だ。

 

冬季休暇に 三人はスキー旅行に来ているのだ。

生憎の吹雪 ・・・ 彼らは小康状態になるまで ホテルで快適ライフを

楽しんでいる。

 

「 ・・・ なんかさ なんでも < 重い > よね 」

「 重い?? なにが 」

「 あ〜〜 寒さとか 雰囲気とか。 そうそう 食器もさあ 」

「 あらあ 上等な陶器は 本当に薄くて軽いわ? 」

「 え ・・・ そうなの? 」

「 ははは お前さんがいじれるのは 大衆向きのモノだからさ。 」

「 そうねえ チビの頃は 普通のお家で使う食器は

 分厚くて重かったわ 」

「 ふうん ・・・ でも いい感じだよね 手触りとか・・・

 ぼく プラスチックのとかよりずっと好きさ 」

「 それはそうね 」

 

    コトン。  彼女は どっしりしたカップを置いた。

 

「 さあ 今日のコースを説明しておくぞ 」

「 はあい 」

「 お〜っと 」

三人は 暖炉の側に集まった。

  

       ご〜〜〜〜   ぱちぱちぱち ・・・

 

ホンモノの炎がおどり ホンモノの暖気が三人の頬を照らす。

 

「 ・・・で ここを直進 ―  おい? 聞いてるか ジョー! 」

「 ・・・ え?  あ〜〜〜 ごめ・・・ 」

「 やだあ  ジョー。  寝てたの? 」

「 ごめ〜〜ん だってさあ 暖炉の火って ・・・ 良すぎ(^^♪ 

 ぼくさ こう・・・ ホンモノの火で温まるって初めてで 」

「 おいおい 戦闘中の野営では焚火しただろうが 」

「 あ〜  でもさ ああいう時は 温まる って感じじゃないよね? 」

「 そうかもしれないわね  日本のお家の暖炉は ストーブ用の

 装飾品だしね 」

「 あそこで火を焚いたら ・・・ 通報される 」

「 あはは そうだよねえ〜〜 

 ああ でも・・・ 火ってこんなに暖かくて ほっこり気分だよね

 こう〜〜 見てるだけど癒されるなあ 」

「 ふふふ ・・・ ジョー あとでランプを使ってみる?

 ぜ〜んぜん暗いけど 雰囲気あるわよ〜〜 」

「 ランプ??  ・・・ アルコール・ランプなら理科の実験で

 使ったことあるよ 」

「 そのランプじゃない。 照明器具としてのランプさ。

 コドモの頃、常夜灯の代わりに小さなランプが点いていたな・・ 」

「 へえ ・・・ 火を灯にするのかあ ・・・

 うん ・・・ なんかさ、 考えてみると 冬って ― 凄いよねえ 」

「 冬を有効利用するニンゲンの知恵 とでもいうかな

 スキーは 冬を楽しむ一つの素晴らしい方法さ 」

「 そうね そうね〜〜 」

「 フラン ・・・ バレリーナさんが スキー していいの? 」

「 ・・・ ナイショ。   絶対怪我しないわ! 」

 

    え〜 あはは  ふふふ ・・・・

 

彼女の真剣な顔が可愛いくて ― アルベルトとジョーは 声を上げて笑った。

 

 

  ― 三人のスキー旅行、そもそものきっかけは。

 

話はすこし前のニッポン・ギルモア邸に戻る。

 

     ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・・

 

温暖な気候のこの地でも 北風が吹く時期がある。

関東平野ほどではないけれど 海からの風が そして 

背後の山を越えてくる風がとてもキツイ日々が 短い期間だがやってくる。

 

  ガタガタガタ −−−−  窓が小刻みにゆれる。

 

「 あら ・・・ 今日は風が強いのねえ ・・・

 いけない!  雑巾を乾したままだわ 」

フランソワーズは キッチンの出口から裏庭に出た。

 

   カッタカッタ カタカタ  ・・・ 庭サンダルを鳴らしてゆく。

 

「 うわ・・・ 凄い風〜〜〜  うわお〜〜〜 」

金色の髪が逆巻く風に 沸き上がる。

「 もう〜〜〜   あ やだあ カチューシャが ・・・ 」

髪から外れ 風に転がるそれを追って駆けだした。

「 あ〜〜〜 もう〜〜〜〜  こらあ〜〜  」

カラカラ ・・・ 風に乗っかりもう宙を飛び始め ―

「 ・・・ あ〜  ダメかも〜〜〜   お気に入りなんだけどなあ 

しょんぼり見送っていた時 ― 

 

     きったか〜〜〜ぜ こぞうの かんたろ〜〜〜〜〜♪

 

のんびりした歌声が響いてきた。

「 あら  ジョー 帰ってきた・・・? 

 ああ そろそろお茶タイムね  熱いお茶、いれよっかなあ 」

 

「 お?  なんだ???   あ。   きゃっち♪  

 フラン〜〜〜  きみの相棒を捕まえたよぉ 」 

ジョーは赤いカチューシャを ぶんぶん振り回している。 

「 え???  ホント?? うわ〜〜〜  嬉しい♪ 」

彼女は 玄関前まで駆けていった。

「 ほい。  なんか 風に乗ってきたよ? 」

「 ありがとう〜〜〜   そうなのよ、 さっきね 裏庭で

 ぶわ〜〜〜っと・・・ 飛ばされちゃったの 」

「 そっか〜〜 冬はさあ この辺でも季節風が強いんだ 

 ひゅるる〜〜ん るんるんるん(^^♪ ってね 」

ジョーはなんだか少し楽しそうだ。

「 この辺りは温かいって聞いてたけど ― 

 やっぱり冬には寒くなるのねえ ・・・ わたし 寒いの キライ 」

カチューシャで髪を直すと 彼女は両手を擦り合わせた。

「 え〜〜 ぼく 冬って好きだよ〜〜 

 こう〜〜 さ 空気が引き締まって キリっとするじゃん? 

 この寒さって  気持ちいいなあ〜って思わない? 」

「 え。 あらあ ココの冬は ―  秋の終わり って感じよ 」

「 ―  今 もう冬だけど? 」

「 あら そろそろ冬の入口が見えるかなあ〜 って思ってたけど 」

「 あのさ。  ここいら辺は 温暖なんだ。 きみの故郷は

 もっとずっと北の街だろう  パリってさ。 」

「 そうね。   あら  じゃあ もしかして ― ここだと

 雪 ・・・  降らない?? 」

「 雪?? ああ そりゃ無理〜〜〜 ってこと。 

 たまあに ちらっと風に混じったり う〜〜〜んと寒い日に

 ミゾレになったりはするけど ね 」

「 そうなの??  あら じゃあ ジョー スキー したこと ある? 。

「 は???  す すきー ??? 」

「 そ♪  この辺は ・・・ 無理そうだけど・・・・

 日本には スキーのゲレンデ ってあるの? 

「 あ ああ ・・・ うん あるよ

 北海道とか ぱうだ〜〜すの〜〜 って人気だし。

 あと ・・・ 東北とか長野とか北陸とか 」

「 あらあ  ショウナン地方 にはないの 」

「 それは  む〜〜り〜〜〜〜〜 ってことデス  」

「 ざんねん〜〜〜〜〜 

「 あ でもね 一度だけ行ったこと あるんだ。

 なんか慈善団体の企画で 施設の子、みんな行ったよ。 」

「 そうなの? 」

「 うん。 多分二泊三日くらいだったと思うけど・・・ 長野の方 かな。

 雪 なんて触るのも初めてだったから 覚えてるよ。 」

「 スキー した? 」

「 いや。 チビだったし ソリ遊びで大喜び って程度 」

「 ふうん〜〜 

  ・・・ ああ  お茶たいむ にしましょ 」

「 うん  あ  これ 手紙類きてたよ。 」

ジョーはポストから取ってきた郵便物を両手に持っている。

「 メルシ〜〜  リビングまで持っていってね〜 」

「 おっけ〜〜〜 あ 今日のオヤツ なに 」

「 さっき オーツ・ビスケット 焼いたわ 」

「 やた〜〜〜♪ ぼく 大好き〜〜〜♪

 ふんふんふ〜〜〜ん  今日のオヤツは お〜つ・びすけ(^^♪ 

 らりらりら〜〜〜ん♪  あ ぼく お茶 いれるね〜〜 」

ジョーは もうご機嫌ちゃんでずんずんリビングに入っていった。

 

「 ・・・ あらら ・・・ もう ホント子供みたいね ・・・

 こんな日には オーツ・ビスケットは最高だけど 」

「 フラン〜〜〜 カフェ・オ・レ だよねえ? 」

「 はあい お願い〜〜 」

「 おっけ〜〜  あ 手紙とかテーブルに置いたから 」 

「 了解〜〜  あ いけない 雑巾! 」

 

彼女は 裏庭に周ってから戻ってきた。

 

「 ふう ・・・ 温暖っていっても風はキツいわ〜〜 」

  カタン。  リビングのドアを開ければ コーヒーの香りが流れる。

「 ・・・ ふう〜〜ん  いいわね、こういうのも・・・

 ああ 手紙 ・・・  あ アルベルトからだわ ! 」

テーブルの上に置かれた郵便のなかに ドイツからのエア・メイルがあった。

 

   カチャ カチャ ・・・   カチン。

 

「 〜〜〜〜っと。 カフェ・オ・レ どうぞ〜 

ジョーが慎重〜〜な手つきで カップをソーサーに置く。

「 はい 上手に置けました(^^♪  では〜 オーツ・ビスケットで〜す 」

 

  ほわん。  カゴに入ったビスケットが置かれた。

 

「 もう一回 温めなおしたの。 どうぞ〜〜 」

「 わい♪  いっただっきまあす〜〜   あ 博士は? 」

「 夕食までには戻る って 」

「 そっか〜〜   あ ウマ〜〜〜〜 ( はぐはぐ ) 」

「 ふふふ ・・ ねえ アルベルトからよ。 」

フランソワーズは レターパッドを見せる。

「 ああ?  へえ ・・・ 彼って紙の手紙、好きだよねえ

 読んで 読んで〜〜  」

「 うん ・・・   今ね ・・・ ちょっと旅行してるみたいよ? 

 え〜と・・・    あ いいわね!   ねえ これ 行きましょうよ!! 」

「 フラン〜〜〜  ひとりでのってないで説明して〜 」

「 あ ごめんなさい。 ジョー ほら  」

「 フラン 読んで。 ぼく これ食べたいんだ 〜 」

「 まあ ・・・ もう〜〜 でも いいわ。 わたしのビスケット、

 そんなに気に入ってくれるなんて 嬉しいわ 」

「 だって〜〜 激ウマだよう〜〜   ( はぐはぐ )

 ね この す〜〜っとする葉っぱ なに? 」

「 あ それはウチの温室で育てたミントよ。 」

「 そうなんだ〜〜 すご ウマ ・・・・ あ で アルベルトは 」

「 はいはい あのね スキーにきませんか って 」

「 す すき〜〜 ・・・? 」

「 そ。 素敵よぉ〜〜〜 本当の冬が楽しめるわ 」

「 え きみ 寒いの、苦手なんだろ? 」

「 ええ。 でもね スキーは別よ! スキー場では ち〜〜っとも

 寒くないの。 」

「 へ え ・・・  それで 場所はどこ? ドイツにスキー場、

 あるの? 」

「 あるわよぉ〜〜〜  ドイツはフランスよりももっと寒いし。

 冬はね しっかり雪が降るの。 ステキよ〜〜〜 

 ね 行きましょうよ 」

「 ・・・ ぼく できません けど ・・・ 」

「 だあいじょうぶ!  ちゃ〜んと教えるわ。

 それにね アルベルト、上手よ〜〜〜 教えてもらえばいいわ。」

「 な なんか 怖いんですけど ・・・ 」

「 あ〜ら どうして?  じゃ おっけ〜の返信するわ。

 ああ そうそう 多分すごく冷えるから 防護服を忘れずに  って。 」

「 え・・・ アレ もってくの? 」

「 そうよ。 軽くて防寒機能に優れているって ダウンとかよりも

 防護服が最高よ。  」

「 そりゃ ね ・・・  」

「 じゃ 決まりね〜〜  エア・チケット、取っておくわ。

 きゃ〜〜〜 楽しみ〜〜〜〜〜  雪って久し振りだわ 」

「 ― ぼく ちゃんと積もった雪って 初めてかも 」

「 そう? あら 南極とか行ったじゃない? 」

「 あそこにあったのは 氷ばっか ・・・ 」

「 ふうん?   じゃ 最高の冬にしましょ♪ 」

「 ・・・ そう なるかなあ 」

 

    カチン。 

 

カフェ・オ・レ ボウル と マグ・カップはちょっぴり複雑な

乾杯をしたのだった。

 

 

  ―  そして 彼らは 今 ここにいる。

 

 

    ビュウ  −−−−−−−   ヒュウ 〜〜〜〜

 

雪たちはまだまだ吹き荒れている。

「 これが 今回のコース ・・・ 予定だがな。

 そして こっちはこの地域の地図だ。 」

アルベルトは 大理石のテーブルの上にデータを置いた。

「 これを 記憶データボックスに転送しておけ 」

彼は つんつん・・・自分のアタマを突く。

「「 了解  」」

 

戦闘時の作戦会議 ― に見えなくもない が 彼らの表情が違う。

フランソワーズは もう笑みが零れ続けだし 珍しくも アルベルトも

苦い顔をしていない。 

 ・・・ ジョーだけが なんとな〜く不安な顔をしているが・・・

 

「 ふうん ・・・ このホテルはもう森の中なんだね 」

「 そうだな。  森の中だから吹雪からも護られている。 」

「 あ なるほどねえ ・・・ 」

「 それに な。 この地方にはずっと昔から伝わっている伝説の城 が

 あるのさ。 」

「 え。 なあに なあに それ?? わたし 知らないわ 」

フランソワーズは もう声のボルテージが自然にアップしてしまっている。

「 フラン ってば ・・・ 」

「 あらあ だってロマンチックじゃない? ねえ ねえ 教えて〜〜 」

「 これは ― この地域だけに 代々伝承してきたハナシでな

 当然 文献にはなっていないし語れる古老たちも減ってゆき 

 もう 詳しく知っているモノは ほとんどいないのだそうだ。 」

「 ふうん ・・・ それで それで??

 アルベルトはその伝説 どうして知っているの 」

「 俺は チビのころ ばあさんに聞いたのさ 」

「 それで それで?? 」

「 まあ 今 話すから 」

彼は 冷えてしまったコーヒーの残りを 一口、飲んだ。

 

「 むかし むかし ・・・ お決まりの口上だが ―

 

    パチパチパチ −−−  

 

薪の燃える音にきっちりした言葉が重なってゆく。

 

ヨツンヘイムを統べる王は 別荘としての城をこの地域にもっていた。

小さい城だが堅牢な石垣に護られ、 中は緑あふれ快適な地になっていた。

城主の家族、 召使い そして 城内に畑をつくる農民や 

牛や羊を飼うもの達も一緒に暮らしていた。

 

その美しい城は 一年で一番寒い日に 石造りの扉を開く。

そして 吹雪に寄せ集められたヒトが ― この城に招かれる。

城主は その中から共に永遠の時を生きる仲間を選び < 連れてゆく >

城の民になれば 永遠に若く美しく ・・・ 冬の城で生きてゆけるのだ。

 

この村でも ほら 川むこうでも行方不明の者がいるだろう?

彼らは 川に落ちたのでも 山で遭難したのでもない ―

あの美しい城に招かれ ― 帰ってこなかっただけ なのだ ・・・

 

そう  ―   冬の城は 一年で一番寒い日に 扉を開く ―

 

   ごとん。  ―  太い薪が焼け落ちた。

 

「 わ!  びっくりした・・・ ああ 暖炉かあ 」

ジョーは一瞬 跳びあがり ―  新しい薪をくべた。

「 ・・・ ふうん ・・・ ねえ 一番寒い日 って いつ?

 日本でいうなら 冬至 かしら 」

フランソワーズは興味深々の様子だ。

「 − あら お茶が冷えてしまったわね  淹れかえるわ 

「 ありがとう  頼む 」

「 アルベルト。  なんか ちょっと思い出すよね?

 ほら あの ・・・ 姉妹のこと ・・・  」

「 −  ああ  あの冬のカーニバルか ・・・ 

 あ? お前さん あの時はスキー 滑ってたよな? 」

「 ・・・ 実はさ。   転げ落ちてただけ だったんだ・・・」

「 なんだあ?? それであの山荘のとこに落っこちたのか? 」

「 そ。  ―  あそこの山荘も城みたいだったし 

「 うむ ・・・ 最終的には崩壊したが な 」

「 ・・・ そうだったね ・・・

 ああ 伝説の方がずっといいね!  救いがあるよ 」

「 伝説は ある意味ハッピーエンドだからな 」

「 え ハッピーエンド?? 

「 誰も死なないだろ  城の招かれたモノはこちらでは行方不明だが

 本人は シアワセになる 

「 ・・・ あ  そう  そうだねえ 

「 ― いっそ 城の中で暮らした方がいいか ・・・ 俺たち 」

 

     カチン カチャ ・・・ いい香の湯気が漂ってきた。

 

「 はい  お茶のおかわり 〜〜〜   え なあに 」 

「 わ〜〜 ありがとう!  僕は ・・・ こちら側に居たい 」

「 おう ダンケ。  お前は な 」

彼は に・・・・っと笑った。

「 ・・・ さあ 吹雪の具合はどうかな 」

アルベルトは カップを受け取るとそのまま窓辺へ寄った。

繊細なレースのカーテンを開け 緞子のドレープを繰る。

「  え どう?? そろそろ 止みそうかしら 」

フランソワーズも 彼の背後に駆け寄っていった。

 

     ・・・ アルベルト ・・・

 

     君は ―   還りたい のかな

     本当の君が 生きていた世界へ 

 

     フラン ・・・ きみ も ?

 

ジョーは 銀髪と金髪の仲間の背中をしばらく見つめていた。

 

「 う〜〜ん  もう少し様子をみよう 」

「 え〜〜〜 大丈夫じゃない?  わたし達なら 」

「 おいおい お嬢さん?  俺たちは 普通のヒト だぞ?

 吹雪をついて出掛けていったら ― 捜索されちまうぞ

 いや その前にこのホテルからは 出してはくれまいよ 」

「 ・・・ ああ〜〜 滑りたいのぉ〜〜〜 

 ねえ? 伝説の城 に巡りあえたら素敵ね! 」

「 ― フラン ・・・ き きみも・・・? 」

「 だって城の中は 快適な空間なのでしょう?

 見てみたいじゃない?   ― 異空間 なのかなあ

 ね もしかして ヨツンヘイムの王は 宇宙人かしら  」

「 こらこら  不用意なウワサをすると ― 連れて行かれるぞ 」

「 聞いてるってこと?  盗聴してるのならますます宇宙人ね 」

「 ロマンがないよ フラン 」

「 ふふふ〜〜   21世紀に生きてますもんでね ・・・ 」

「 ・・・ぼくは 19世紀とか好きだけど 」

「 あ〜ら 意外ね 」

「 なんかさ ゆっくりゆったり ・・・ってもの

いいなあ〜って  このごろ思うんだ   暖炉 とか  ・・・ 」

「 ― お前さんもちっとはオトナの入り口に立ったってことだ。 

 そろそろ片づけて準備するか 

「「 了解 〜〜〜 」」

 

   カチャカチャ −−−

 

お茶道具をこの部屋の備え付けの簡易キッチンに運ぶ。

シンクで食器を洗い 周辺を片づける。

「 ふんふ〜〜ん ・・・  あれ ここに植木があるよ?

 いいね 」

簡易キッチンの隅には 鉢植えが置いてあり青々した葉を茂らせている。

厳冬期でも 室温で育っているのだろう。

「 あ。   これ ミントだ  ウチの温室でフランが育ててるヤツ・・・ 

 ああ いい香だなあ〜〜 一枚 もらお  」

ジョーは 何気なく、その香草の葉を一枚 ポケットに入れた。

 

「 ジョー 〜〜〜〜  吹雪が止んできたわよ〜〜〜〜 」

 

        さあ 真冬の冒険が 始まる 

 

Last updated : 09.13.2022.              index      /      next

 

***********    途中ですが

季節外れもいいトコですが ・・・・

原作あのお話 をちょこっと引用 〜〜〜

三人の 楽しい?冬の冒険  (^◇^)